
ライラは肥満気味だった。肥満の度合いについてはちょうど「やや肥満気味」な体型だったが、もちろん、彼女自身は体型に関しては何も言わなかった。このことは私が彼女と知り合ってから自分で見て観察したことだった。 女性にとっては特に、体型のことはとても複雑で難しい問題であり、セラピーでは避けて通れないが、それと同時に繊細な問題であるため簡単にクライアントにつきつけることはできない。しかし今回の場合、ライラは自分の体型に関しての問題と向き合う準備ができていた。 体重が増えたきっかけを聞くと、はじめは大学の時だったと答えた。学生のころはお金がなかったけどいつもお腹がへっていたので、食べるときはどか食いをしてしまったが、だんだんと落ち着いてきて通常の食生活にもどったと言った。 なので、その後のことも聞くと、娘が生まれたころは授乳のためたくさん食べていたので、体重が増えたと彼女は答えた。しかし、娘はもう10歳なのにライラは未だにその時の体重と変わらなかった。それだけではなく、彼女は口惜しいので、よく何かを食べているということも話してくれた。このことは色々な心理状況にあてはまるが、今のところ見えているのは彼女が心配性であるということだけだった。しかし、心配性だということも漠然としていて具体的にどのようなものをかかえているのかは分からなかったので、なんとも判断がつかなかった。 そしていつもどのような食べ物をどれくらい食べ、どれくらい運動をしているかを聞いた。こうすることにより問題に具体的な解決法を見つけることができる。彼女の話を聞いたところ、いっぱい食べているようではなかったので、やはり何が問題なのかがまだ分からなかった。 そのため、私は彼女が変わるためには具体的に3つの点で気をつけないといけないということを言った。それは彼女が食べる物の質、食べる物の量、そして運動とのバランスだった。 また自分で全て成し遂げようとするのではなく、まわりの人に助けてもらうことが重要だと伝えた。彼女のまわりの状況を聞いていると仕事場や友達、家族、趣味などでは充実しているようだったので、このような要素にあたるストレスが原因で無い事は分かった。 だが、彼女の話を聞いてもまだ、何が肥満の原因なのかが分からなかった。そのため彼女の心配性な性格に関して聞いてみるとライラの父親はいつもライラのことを心配していて、どうやらその性格がライラにうつり、娘への心配性に変わっていたようだった。 これはクライアントのフィールドと関係していたので、取り扱う必要があった。だが、そうする前に、彼女は急に「あ、そうだ。私が子供の頃、よくお母さんに無理矢理食べさせられていたんだ」と言った。 彼女は子供の頃、母親が食べ物を口に無理矢理押し込んで、まだ食べ終わらないうちにまた食べ物を口に無理矢理いれるという記憶があったことを話してくれた。そして、このことはよくあり、彼女はとても不愉快なおもいをしていた。そしてそれを話しながら涙を流していた。わたしが彼女に同情し、今どのような気持ちでいるかを聞くと、「怒り」と答えた。 そこでライラに大人である自分の声を用いて、「もう十分だわ。無理矢理口に食べ物を押し込むのをやめてちょうだい」と、母に子供の頃の自分が言ったであろう言葉を言うように促した。だが彼女はなかなかこの言葉を発することができなかった。これを見た私は、ライラに自分の手を口の前に突き出し、それ以上食べれないようなしぐさをするように言った。こうすることにより、ライラは自分の内に勇気がわいてくるのを感じた。 宿題の課題として、食事をする度に母親のことと彼女に無理矢理食べさせられていたことを思い出し、自分がどのように反応するかを考えてみるよう伝えた。 こうして意識的に子供の頃のトラウマと戦うことにより、ライラは無力な子供から断る力のある大人になっていくことができるのだ。
投稿者 Steve Vinay Gunther