Case #72 - 痛みに対しての解毒剤


サマンサはビジネスウーマンとして成功していた。でも、なかなか生涯のパートナーを見つけることができなかった。彼女は、自分はビジネスを頑張るか、パートナーを探すか、どちらかひとつにしか集中できないという問題を抱えていた。 彼女はこのことでとても苦しんでおり、とてもみじめな思いをしていると言った。彼女はなかなか良い男性に出会うことができなかった。 彼女の話を聞けば聞くほど彼女の嘆きがよく分かってきて、本当に哀しい思いをしているのだな、と思った。彼女は本当に哀しそうな顔をしていたので、その理由を聞くと、自分は特に理由がなくてもいつも哀しくてそれは良いパートナーの男性がいないからだと思う、と言った。 クライアントは明確な問題(自分の「悩み」)を抱えてくることもあるが、ゲシュタルトでは必ずしもこれを解決へ導こうとするより、その過程に心を傾けるようにしている。つまり、「そのこと自体」よりも「どのように」ということに集中するのだ。サマンサの場合、私は彼女の哀しそうな声のトーンと憂鬱な気持ちが気になった。もちろん、「問題」に耳を傾けることも大事だが、そればかりにとらわれないように注意しないといけない。ゲシュタルト法では、その人の情緒状態(今感じていること)にまず気を配り、内容は次にくる。 そこで私はあるアクティビティを提案した。彼女に部屋を見回し一番好きな色を選ぶように言った。彼女は壁に描かれた緑の木と同じ緑色を選んだ。 私は彼女にそれを見つめ、お腹に手をあて、その色を見つめ、それにつつまれた素敵な気持ちも一緒に吸い込むように息をするように言った。しかし彼女は泣き出してしまい、目をつぶってしまった。私ははっきりとした力強いトーンで彼女に話しかけ、今の想いから逃げ出してしまわず、しっかりと見つめ、息をし、良い感情をとりいれるよう伝えた。 「今を生きる」ということはゲシュタルト法の根本であり、基盤であるため、よくセラピーでは「今おきていること」を見つめるようにクライアントを促している。そうすることにより、ゲシュタルト法の目的である、「生き生きとした自分を見つける」ことができるのだ。 次に私は部屋にあるものを一つ選ぶよう彼女に言った。彼女は緑のろうそくを選んだ。 私はまた同じようにろうそくを見つめ息をゆっくりするように促したが、彼女はまたも自分の殻の中に閉じこもりそうになった。なので、私は今起きていることから逃げずにそれを見つめるようまた促した。彼女は頑張って目を開けていたが、突然「リビング・デッド」(死んでいるのに生きている)という言葉を発した。私がその言葉の意味を彼女に聞いたところ、「自分には罪悪感がある」と言った。彼女は中絶をしたのだが、未だにその傷をひきずっていたのだ。 やっと彼女の心の悩みの根本的な理由が分かった。人は、人生を生き生きと生きるためにはまずこのような根本的な心の悩みと向き合わないといけないのだ。 なので私は彼女のためにある「儀式」を思いついた。それはろうそくをともし、生まれることの無かった子供への想いを話し(話す言葉は私が考え)、それをしっかりと受け入れ、そして手放すこと。。。つまりろうそくを吹き消すということだった。 彼女がこうすると、次第に安定感がもどってきた。 私は「ろうそくが全て燃え尽きるまで毎日この『儀式』を続けるよう」彼女に提案した。 そして彼女にもう一度緑のろうそくを見つめ、お腹に手をおき、「喜びや嬉しさにあふれた良い気持ち」を吸い込むように言った。今回は、彼女はしっかりとこれをすることができた。 人は憂鬱になっている時には、現在起こっていることにフォーカスせず、すぐに「今まで慣れ親しんで来た嘆き」の中に陥ってしまう傾向がある。そのため、その人を今起こっていることに焦点を戻させることはとても大事なことだ。 鬱な気持ちにひたっている人のための一つの「解毒剤」(対策)は、喜びやうれしい気持ちを取り入れることだ。こうすることにより、人は強くなり「人生で何が起こっても生き抜くことができる」ようになる。



 投稿者  Steve Vinay Gunther